2009年4月5日日曜日

第19回「読書合宿」

竹中君の卒論は素晴らしい完成度だった。


年明け以降はゆっくり話し合う時間も満足に取れず、会えば就活コースの後輩たちの話や昔話ばかりになって、全て竹中君が企画して作り上げたものだが、洞察の深さといい、まとめ方といい、さすが六期生をまとめたリーダーの仕事だった。


ここで扱われているテーマは大きく二つある。


一つは二・二六事件、もう一つは東京裁判だ。


私は二・二六事件こそ、昭和史の悲劇の最高潮だと感じている。


背景も原因もあまりに複雑で、近代日本の歩みはあそこで限界を迎えたのではないだろうか。


昔から様々な立場の当事者の本を読んできたが、結論などいっこうに出ない。


というより、歴史に結論など求めようとする方がおかしいことをじきに悟ったが、それにしても、なんと悲しい事件だろうか。


血気にはやる青年将校たちの苦衷を知り、なおかつ政府の苦悩も知りながら、青年将校たちがいずれ「反乱軍」となることが分かっていても、笑顔でかつぎあげられ、あえて「逆賊」となって国家をまとめあげるような人物が現れていたら…


などと、西南戦争を学んだ後は何度思ったことだろう。


真崎も荒木も、そうはなれなかった。


二・二六事件と明治維新は七十年近くも離れているし、直接の因果関係を求めるつもりなどないが、二・二六事件も近代化の限界が一つの原因となったことを考えると、やはり、明治維新が必然的に内包していた国家的課題と同質の原因から起こったのではないかと思われる。


個人的な感想ではあるが、二・二六事件を学んでみて、私は改めて、西郷隆盛という人物の巨大さを感じた。


なんと巨大な器を持った偉人だったかと思う。


わが国は二・二六事件でできた体制のまま、大東亜戦争に突入し、未曾有の敗戦を味わった。


そして占領が始まり、そこで行なわれたのが東京裁判だ。


東京裁判といっても、一般の学生は、その名前すら知らないだろうし、知っていても、「A級戦犯」という用語がぼんやりと浮ぶくらいだろう。


私は、学生がそうした用語を知らないことよりも、それ以上に歴史そのものに何の愛着も関心もないという事実に、東京裁判の影響を見る。


東京裁判の直接的影響を受けた世代が「日本なんて大嫌い」と荒れ狂った学生運動の世代なら、私を含めた二代目、三代目の戦後世代は、「日本?別にどうなったっちゃ、いいんじゃないの?」という世代かもしれない。


とにかく、「ノンポリ」であるかどうかという以前に、興味も意欲も、基礎知識も前提条件の把握すらもほとんどない世代だと思う。


だが、「歴史?関係ないね」という世代に対しても、歴史の方は大いに関係しているのである。


「関係ないね」という反応自体が歴史の結果なのだ。


その証拠を知るのに適切だと思うのが江藤淳氏の著作なので、読書合宿では四月に江藤作品を読むことにしている。


今年も学生の反応はやはり、「知らないって怖い」というものだった。


素直で、誠実で、偽りのないものだった。


そして、パール判事のことを知った学生たちの反応も、「日本人なのに恥ずかしい」、「日本人なのに悔しい」というものだった。


私はこれで、十分だと思った。


今まではもしかして、「日本人だから恥かしい」、「日本人だから悔しい」だったかもしれないからだ。


「日本人なのに、日本のことを知らないなんて、恥ずかしいし悔しい」。


これこそ、自分が何者であり、何者であるべきかを感じた、何より素直な告白ではないだろうか。


思い返せば、近現代史勉強会や読書合宿に初めて参加した時の竹中君、森川君の感想も、まったく同じものだった。


そして二人は、その思いに執着し続けた。


もちろん、他の四年生も同じ気持ちで学び続けた。


その先輩たちの姿から学んだ後輩たちが、今、四年生となって、就活中でありながら、読書合宿に参加している。


この間わずか一ヶ月ほどだが、これも歴史だ。


こんなことをあと数十年頑張れば、福岡から将来の歴史を変える人材がきっと、生まれてくるだろう。


そのためにも、みんなには、ぜひ、トップ営業マン、エリート社員、大実業家、大金持ち、敏腕投資家になってほしい。


そして、「歴史を学んだ者」の姿を天下に示してほしい。


読書合宿と近現代史勉強会に比べれば、FUNとmai placeの他の講座は、すべて「おまけ」のようなものだ。


なぜなら、あらゆる講座は歴史の学びを原点として作っているからだ。


実際の実務でも圧倒的に活躍してほしいが、その時のモチベーションの源泉は、愛国心でなければならない。


達しても慢心せず、屈しても諦めないためには、巨大な偉人の姿や、先人の苦悩を、若いうちに学んでおかねばならない。


今日のみんなの感想は感動的だった。


楊君のグループワークでのコメントは本当に素晴らしかった。


今年もきっと、去年以上の読書合宿が実現できるはずだ。

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